151223 初版 151223 更新
はじめに
2つの数列 {an}, {bn} に対して,
積の数列の和 Σ ak bk について,考察してみます。
このような和を求める問題がいろいろと見受けられます。
等比数列
{an} は すべての自然数 n について \(a_n=1\),
{bn} については,r を定数として,
\(b_n=r^{n-1}\) とします。
いうまでもなく 数列 \(\{a_n b_n\}\) は,
初項が 1, 公比が r の等比数列です。
\(\displaystyle{S=\sum_{k=1}^n r^{k-1}}\) とおくと,
\(S-rS=1-r^n\) です。
数列の和を求めることは,不定積分を求めることと同じように,
何かしらのアイディアが必要になります。
等比数列の和を求めるには,S - rS を計算すればよいというのが,
アイディアということになります。
この S - rS により,
ほとんどの項が消滅して,
n 項の和を求めることが,高々 2 項の和を計算すればよいことになります。
「等差×等比 型」 その 1
\(a_n=n\),
\(b_n=r^{n-1}\) とします。
\(\displaystyle{S=\sum_{k=1}^n kr^{k-1}}\) と改めておきなおします。
この和 S は
教科書においては,
「練習」として取り上げられています。
S - rS (=T とおく) を計算するアイディアが一般的です。
T の最初の n 項は 等比数列になります。
和 T を求めるために T - rT が使えるのではないかという発想が出てきます。
実際,
\(S - 2rS + r^2S\)
\(\displaystyle{
=\sum_{k=1}^n kr^{k-1}
}\)
\(\displaystyle{
-2r\sum_{k=1}^n kr^{k-1}
}\)
\(\displaystyle{
+r^2\sum_{k=1}^n kr^{k-1}
}\)
\(\displaystyle{=
\left(1+2r+\sum_{k=2}^{n-1} (k+1)r^{k}\right)
}\)
\(\displaystyle{
+\left(-2r-\sum_{k=2}^{n-1} 2kr^{k}-2nr^n\right)
}\)
\(\displaystyle{
+\left(\sum_{k=2}^{n-1} (k-1)r^{k}+(n-1)r^n+nr^{n+1}\right)
}\)
\(
=1-(n+1)r^n+nr^{n+1}
\)
恒等式 1
任意の k に対して,
\(
(k+1) - 2k + (k-1)=0
\)
これによって,ほとんどの項が消滅して,
高々6項の残りの和をしっかりと計算すればよいことになります。
この何気ない式は,二項係数の不思議な性質まで拡張されます。
「等差×等比 型」 その 2
数列 {an} を等差数列,
\(b_n=r^{n-1}\) とします。
\(\displaystyle{S=\sum_{k=1}^n a_k\cdot r^{k-1}}\) と改めておきなおします。
この和 S は,「等差×等比 型」の数列の和 と呼ばれることがあります。
通常は S - rS を計算しますが,
いろいろな方が研究されていますね。
また,先ほどの
\(\displaystyle{\sum_{k=1}^n kr^{k-1}}\) の結果を
公式として用いる人もいます。
公式とは多くの場合,解法の筋道をパッケージ化したものだと思っています。
容易に想像できるのですが,
この場合も S - 2rS + r2S を計算することで,
ほとんどの項が消滅(vanish)します。
実際,
\(S - 2rS + r^2S\)
\(\displaystyle{
\sum_{k=1}^n a_kr^{k-1}
}\)
\(\displaystyle{
-2r\sum_{k=1}^n a_kr^{k-1}
}\)
\(\displaystyle{
+r^2\sum_{k=1}^n a_kr^{k-1}
}\)
\(\displaystyle{=
\left(a_1+a_2r+\sum_{k=2}^{n-1} a_{k+1}r^{k}\right)
}\)
\(\displaystyle{
+\left(-2a_1r-\sum_{k=2}^{n-1} 2a_kr^{k}-2a_nr^n\right)
}\)
\(\displaystyle{
+\left(\sum_{k=2}^{n-1} a_{k-1}r^{k}+a_{n-1}r^n+a_nr^{n+1}\right)
}\)
\(
=a_1+(a_2-2a_1)r
\)
\(+(-2a_n+a_{n-1})r^n+a_nr^{n+1}
\)
\(
=a_1-a_0r-a_{n+1}r^n+a_nr^{n+1}
\) … ①
補題 2 (等差中項)
等差数列の隣接3項間には次の関係式が成り立つ。
2以上の自然数 n に対して,
\(
a_{n+1}-2a_n+a_{n-1}=0
\)
これによって,ほとんどの項が消滅して,
あとは高々6項の和をしっかりと計算すればよいことになります。
簡便な解法を示唆しています。
① 式は
この補題から,a0 や an+1 に拡張したものです。
例 3 数研出版「青チャート 数学II+B」より
\(S=n+(n-1)\cdot 3+(n-2)\cdot 3^2\)
\(+\cdots\cdots+2\cdot 3^{n-2}+3^{n-1}\)
この和を求めてみます。
この場合 \(S-2\cdot 3S+3^2S\) を計算します。
すると,\(3^k\) (\(k=2,3,\cdots\cdots, n-1\))
の項が消滅する印象をもっているとします。
\(S-2\cdot 3S+3^2S\)
\(=\{n+(n-1)\cdot 3\}\)
\(+(-2n\cdot 3-2\cdot 3^{n})\)
\(+(2\cdot 3^n+3^{n+1})\)
すなわち,
\(S=\dfrac{1}{4}(3^{n+1}-2n-3)\)
「2次式×等比 型」
すぐに,高次への拡張が考えられます。
\(a_n=n^2\),
\(b_n=r^{n-1}\) とします。
\(\displaystyle{S=\sum_{k=1}^n k^2\cdot r^{k-1}}\) と改めておきなおします。
この場合は S - 3rS + 3r2S - r3S を計算してみましょう。
公式 4
\(\displaystyle{S=\sum_{k=1}^n k^2\cdot r^{k-1}}\) とおく。
\((1-r)^3S\)
\(=(1+4r+9r^2)\)
\(+(-3r-12r^2-3n^2r^n)\)
\(
+\{3r^2+3(n-1)^2r^n+3n^2r^{n+1}\}
\)
\(
+\{-(n-2)^2r^n-(n-1)^2r^{n+1}-n^2r^{n+2}\}
\)
\(
=1+r-(n+1)^2r^n
\)
\(
+(2n^2+2n-1)r^{n+1}-n^2r^{n+2}
\)
恒等式 5
\(
(x+3)^2-3(x+2)^2+3(x+1)^2-x^2=0
\)
これによって,\(r^k\) (\(k=3,4,\cdots\cdots,n-1\)) の項が
(\(r^2\) の項も) 消滅して,
あとは高々12項の和をしっかりと計算すればよいことになります。
この恒等式から連想されることがあります。
\((1-r)^3\) の展開式における項の係数 1, -3, 3, -1 には
次のような性質があります。
命題 6
P(n) を n についての任意の2次式とすると
\(
P(n+3)-3P(n+2)
\)
\(
+3P(n+1)-P(n)=0
\)
実際
\((x+3)^2-3(x+2)^2+3(x+1)^2-x^2=0\)
\((x+3)-3(x+2)+3(x+1)-x=0\)
\(1-3+3-1=0\)
二項係数 その 1
いま,pを自然数として,
\(a_n=(-1)^n
\left(\begin{array}{c}
p\cr
n\cr
\end{array}
\right)\) とします。
ここで,
\(\left(
\begin{array}{c}
p\cr
r\cr
\end{array}\right)\) は \((a+b)^p\) の展開式における
\(a^{r}\cdot b^{p-r}\) の項の係数のことです。
命題6は拡張されて,次の定理が成り立ちます。
定理 7 (vanishing theorem)
p 次未満の n についての任意の多項式 b(n) に対して,
\(\displaystyle{\sum_{r=0}^p a_r\cdot b(n+r)}=0\)
等差中項の性質は,この定理に包括されています。
恒等式1 はこの形まで一般化されます。
いくつかの例
命題 8
P(n) を n についての任意の3次式とすると
\(
P(n)-4P(n+1)
\)
\(
+6P(n+2)-4P(n+3)
\)
\(
+P(n+4)=0
\)
これを直接証明するのはただの計算です。
いくつか例を挙げます。
1 - 4 + 6 - 4 + 1 = 0 (とても有名です。)
1・1 - 4・3 + 6・5 - 4・7 + 1・9
= 1 - 12 + 30 - 28 + 9 = 0
1・5・6・11 - 4・6・7・13 + 6・7・8・15 - 4・8・9・17 + 1・9・10・19
= 330 - 2184 + 5040 - 4896 + 1710 = 0
1・14 - 4・24 + 6・34 - 4・44
+ 1・54
= 1 - 64 + 486 - 1024 + 3125 = 2524
4次式以上では成り立ちません。
4次未満は必要です。
命題 9
\(\displaystyle{S=\sum_{r=0}^4
(-1)^r
\left(\begin{array}{c}
4\cr
r\cr
\end{array}
\right)
\left(\begin{array}{c}
2+r\cr
2\cr
\end{array}
\right)
}\) とおくと, \(S=0\)
定理7の特別な場合とみて,一つの説明をしてみます。
\(A(x)=(1-x)^4\cdot x^2\) とする。
すなわち, \(A(x)=x^2-4x^3+6x^4-4x^5+x^6\)
微分する。
\(A^\prime(x)=2x-4\cdot 3x^2+6\cdot 4x^3-4\cdot 5x^4+6x^5\)
もう一回。
\(A^{\prime\prime}(x)\)
\(=2\cdot 1-4\cdot 3\cdot 2x\)
\(+6\cdot 4\cdot 3x^2
-4\cdot 5\cdot 4x^3+6\cdot 5x^4\)
また,\(A^{\prime\prime}(x)\) は \((1-x)^2\) を因数にもつ。
ここで,\(S=\dfrac{1}{2}A^{\prime\prime}(1)=0\)
\(
\left(\begin{array}{c}
2+n\cr
2\cr
\end{array}
\right)
=\dfrac{1}{2}(n+2)(n+1)\) に注意したいところです。
\(
\left(\begin{array}{c}
q+n\cr
q\cr
\end{array}
\right)
\) は n についての q 次多項式です。
二項係数 その 2
定理7はいろいろな説明があると思いますが,
本校生徒の課題研究として取り組ませたいと思っています。
県内のある高校に,次の和と二項係数の関係に気づいた生徒がいました。
問題 10 数研出版「青チャート 数学II+B」より
次の和を求めよ。
\(
S=1\cdot n+2\cdot(n-1)+3\cdot(n-2)\)
\(+\cdots\cdots+(n-1)\cdot 2+n\cdot 1
\)
二項係数には様々な関係式があります。
\(\displaystyle{
\sum_{k=1}^nk(k+1)=\dfrac{1}{3}n(n+1)(n+2)
}\)
は,パスカルの三角形を眺めていると見えてくる,きわめて自然な関係式です。
この問題について,県内の先生方とやり取りをして,
畳み込みともいえる,次の定理に発展しました。
定理 11 (Kanazawa's convolution)
\(\displaystyle{
\sum_{k=0}^{n}
\left(\begin{array}{c}
p+k\cr
p\cr
\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}
q+n-k\cr
q\cr
\end{array}\right)}\)
\(
=\left(\begin{array}{c}
p+q+n+1\cr
p+q+1\cr
\end{array}\right)
\)
p = q = 1, n を n - 1 にすると,問題10になります。
「多項式×等比 型」
少し脇道にそれましたが,本筋に戻ります。
公式 12
\(\displaystyle{S=\sum_{k=1}^n k^p\cdot r^{k-1}}\) とおく。
S は (1 - r)p+1S を計算することによって,
あとは,(p+1)(p+2) 項の和を考察すれば求めることができる。
ほとんどの項が消滅(vanish)する理由は,
定理7 によります。
このように,「等差×等比型」だけでなく,
「(多項式)×等比型」の数列の和を
比較的簡単に計算することができます。